あれは究極のデートだったことに気がついた(emily7)

あれは究極のデートだったことに気がついた(emily7)

エミリーとあの日ホテルに入る誘い方をいろいろ考えてみたけれど、どれもダメダメだ

前回、エミリーとあの日ホテルに入る誘い方をいろいろ考えてみたけれど、どれもダメダメだ。

何より、話が長くてウザい。

こんなことグダグダ話すんじゃなく、黙ってホテル入っちゃえばよかったんだ。

そこで抵抗されたら、

「ハイ、それまでよ」(バーンノーティス)

ってことで諦めればいいわけで。

グダグダ言って無理やり説得してもいいことない。どうせ続かないだろうし(ホテルでミラクル技を発揮して彼女がぼくのそれの虜になっちゃうなんてことも起こるはずないわけだし)。ぼくのそれのトリコモナスかと思ってびっくりした?しないか。

つうか、あの日、若かったんだね。二人とも。

あと12年遅ければ、あるいは、20代後半だったならば間違いなく、こんなグダグダなんか経ずに、また、彼女の照れ隠し的な「ホテル行くつもりじゃないよ」みたいな余計な一言もなく、

「あ、入ろう」

てな感じで一瞬で迷いなくホテルに入ったはずだ。

それにしても、ぼくが黙ってそのことに触れずにいると(ホテルがあることぐらいわかってたさ。あえて気づかないふりしてただけなのに)、耐えきれずに余計なこと言っちゃうなんて、彼女も若かったんだろうな。

いつだって大人っぽく振舞って、ぼく以上にスカしてきたくせに。

あんなこと言ったら、ぼくだって困惑して選択肢がなくなるだけじゃないか(だから、「私、ホテル行くつもりじゃないからね」「ぼくもだよ!」って一瞬でホテルの話は潰えて、その日が彼女との最後の日になってしまったんだ!!ちぇっ)

もしもどうしてもホテル街をグルグルしていることに言及したければ、考える時間はいっぱいあったんだから、

「ねえねえ、ホテルいっぱいあるけど、あなた行きたいの?」

くらいにしておけば、仮にぼくが

「え?うん」

と答えたけれど、『自分はムリ』と思った場合には、

「ごめん。心の準備が」

とかって言えばよく、

仮にぼくが、

「行きたいかって?うーん、考えてなかった」

みたいなアホな答をしたために(この場合、ぼくはうろたえているというより、相手から切り出されたからキョドったふりしてごまかしているだけだけど)、それを『ジレったい間抜けだな』って思った場合には、

「ホテル入ったからって何かしなければいけないわけじゃないでしょ。私はトイレに行きたいのよ」

だとかなんとか言えば良いわけで(二人きりになれば、男なんてどうにでもなる)

『コヤツ、あまりに間抜けすぎて私の方が萎えるわ』、って思った場合には、

「そうよね。たまたま歩いているだけよね。あーホッとした」

とか言えばいいわけだ。

そして、自分はさっさとホテル入ってコトを進めたいのに、ぼくの方は煮え切らずウロウロしてばかり、という場合でない限り、ホテルのことなんか口に出す必要なんてなかったわけだ。

完璧な究極のデートコース

第一、渋谷のホテル街である円山町を抜けてすぐのところにある東急文化村をこの日のデートの場所に指定してきたのは彼女の方だし(デートしてホテル行くのにあそこほど便利な場所は日本中、いや世界中探しても存在しないだろう)、長いお茶をした後に、

「その辺り歩こうか」

つって散歩しながら話しの続きをすることにしたのも主に彼女の方だし(ひとしきりカフェで話したわけだから、久しぶりに会ってみたぼくにガッカリしたとか、ぼくが以前ほどサエてない、つまんないやつになったと思ったんだったらお茶して帰ってたはず。過去にあれほどはっきりサッパリお別れを言えた口なんだから)、歩きながら「こっち」「ここ曲ろっか」つって道を選んでたのも主に彼女だった。

ぼくも渋谷の道には極めて精通してるけど(精通」って単語、ちょっと恥ずかしいななんでこんな言葉が、保健体育学上の専門用語と同じなんだろう?ていうか、この専門用語の方が後で作られたはずで、こんな用語作ったヤツ超センスないよね。なんで既存の言葉と同じ単語にするよ。バカすぎて許し難い)、彼女も同じくらい知っているようで、微妙にあの町のはずれにさりげなく点在している、いかにもじゃないホテルをかすめながら歩いていたことに、彼女の意図が少しも反映されていなかったとは考えにくい。

ホテルが気になるようなら、二周目からは同じ道を避けることだって十分できたと思うし。

そうだとすると、彼女は、ホテル行く流れになるかも、ってことは予め想定はしていたと思う(そもそも、会うことにした時点から、その可能性は織り込み済みのはずだ。小さい時からオシャマでお姉さんぶってて生意気だった彼女が、大学入って急にウブな乙女になるとかありえない。それに彼女は、高校生の時、僕らが大学に入ったら最後まで行っちゃおう、近くに住んで時々ぼくのところに食事作りに行くね、なんて言ってたぐらいだから、その時からとっくに覚悟を決めていた可能性だってある。ぼくは大学入試後、彼女からもう会えないって言われたとき、 原因が思い当たらない中考えついたのが、大学に入ったらヤラせてあげるっていう受験前にした約束が現実になる日が近づいてきて、急に怖くなっちゃったからかなってことだったけど、この日会うのに合意したということは、その問題を乗り越えたってことだから、ぼくとホテルに行くかもしれないことにある程度の覚悟があったと考えるのが自然だろう。ぼくが彼女に懲りずにわざわざ探し当てて電話してきてるくらいなんだから、ぼくがあの約束について、なんにも触れずに水に流すとはさすがに思わないだろうし)

待ち合わせとデートの場所の選択も、ホテルという最終地点に向けた最も効率的なものであるうえに、ぼくたちふたりは渋谷の中でも東急本店や文化村ミュージアム、あるいは松濤といったところの空気に馴染む生き方をしてきたので()、ぼくらがあの辺りでデートすることは雰囲気的にも自然で、イヤらしさを感じさせにくく、絶妙だ

そしてカフェを出てからの散歩ルート。

坂をいくつも登ったり降りたり、ときどきお互いの肩が軽く触れ合う

人生で、ここまで完璧なデートコースがあっただろうか

20年前のぼくは、もしやと思いながらも、彼女のいつものスカしたポーカーフェイスのせいで確信を持てなかったけど、あのデートコースは、2年ぶりに涙の再会を果たしたぼくらが、どんなことが起ころうとも迷うことなくホテルに辿りつき、人生前半の宿題を終わらせられるよう彼女が前々から練っていたプランだったに違いない

大学入学前の最後の電話で彼女がいったセリフは、

「大学入ったらもう会えない。今後は連絡も取れないよ。ごめんね。慶應法学部おめでとう。あなたはぜったい受かると思ってたわ。じゃあね」

という感じだった。

そんなこといきなり言われたぼくが納得できるわけないの当然だけど、その場で食いさがったり、何度も電話して問い詰めるようなことも、ぼくならしないだろうことは計算づくだったはずだ

その上で、しばらくしたらぼくの方から彼女を探し当て、会おうと連絡してくることまで予想してたんだと思う。

そういえば、彼女と連絡が取れたとき、

「そろそろかなって思ってたわよ」

と言っていた。お見通しだったわけだだからやっぱり、あの日の完璧なデートプランは、彼女がぼくとの完璧なデートのために計画したものだったんだ

彼女の余計な一言に対して反射的に、

「ぼくだってホテル行くつもりなんかじゃないよ」

って答えたあと、じゃあもう少し歩いてから帰ろうか、なんて言った気がする。

本当にバカ。なんてやつなんだ、おれ。

反射的な返答でホテル行かないことに静かに決定した後も、互いにそれまでの笑顔も声のトーンも変わらず、仲良しの幼なじみのぼくらのまま、彼女が乗る地下鉄の駅で別れた。

「今日は楽しかった。会えてほんと嬉しかった。ありがとう。また連絡してもいい?元気でね」

などと、だいたいどんな相手やどんなデートでも言うだろう、いかにもぼくが言いそうなばかみたいな別れのセリフを言って、キスもしなければハグも握手も何もない、小学生の友達同士みたいな間抜けな別れ方をしてしまった。

あのデートがエミリーとの最後に…

そして今これを書いている時点で、それがエミリーとの最後になってしまった。

ぼくは勉強したり研究したり女の子とつきあったり別の子を好きになってみたり、渋谷のホテルに行ってみたり(新宿も池袋も五反田も日暮里も四谷も)、アパートメントに女の子が来たり女の子のアパルトマンに行ったり、結婚したり仕事したり旅行したり留学したり別れたり、いろんなことで忙しかったからだ。

だとしても、ぼくの行動はあまりにひどいじゃんか。

また会おうね、なんて口だけ言って、結局二度と連絡すらしないなんて、あの日久しぶりに会った彼女に少しもときめかなかったみたいな結末にするなんて。ぜんぜんそんなことないのに。はっきり言って今でも大好きなのにさ。好きだとも伝えてない!

あの頃はギリギリ携帯電話もメールももなかった(ぼくが東京デジタルフォンの携帯電話を周りよりいち早く手にしたのは、あの日から2年後。メールを使うようになったのはその1年後くらいだったと思う)から、異性の友達と微妙な関係でつながってることが、現在よりはるかに難しい世の中だったというのもあるけど。

あの日のデートは、彼女が計画した完璧なデートプランだったことに気づいた今、自分の愚かさに愕然としてしまう。彼女、傷ついただろうな。ぼくがスカしたのと、ちょっといい子ちゃんぶっちゃったのが原因だ。あのときは、『大学生になって再会したからって、そして、デートの最中にどれだけホテルのそばを通ったからって、ホテル行っちゃおっかなんて言わないぼくって、君のこと大切に思ってて紳士的だろ?』

ていうふうに思っていたと思う。それに、ホテル行こうなんて言うと、「いつから私のことそんなイヤらしい目で見てたのよ!」なんて思われるおそれもあるし。

(彼女が実はイヤらしい目で見られたらものすごく興奮するタイプで、本当はぼくからイヤらしい目で見られることを心底望んでて、それでどう間違ってもホテルに行けるデートコースをめっちゃ興奮しながら計画してた、というなら話は別だが。まあ、そんなことはないと思うが、とにかくぼくは彼女のことを中学入学以降知らないから、思春期を経て彼女がどんな大人の女性になったのかぜんぜんわからずにいるのだ。今でも。想像したくはないが、今現在の彼女が、ものすごくエロで淫乱な中年になっていたらどうしよう?何かで読んだ話では、女性は20代、30代、40代となるに従ってどんどん性欲が増して淫乱になっていくらしいし。子どもが産める限界が近づいてくるため体が焦るのだろうか?淫乱なエミリーなんて怖いな。昔、インリン・オブジョイトイとかいうのがいたな。エロ・テロリストとか言って。だから淫乱っていうと、エロ・テロリストって感じがする) ←アホか

紳士的なぼくを見て、彼女もちょっとは安心した面もあったかな、とは思う。だけどぜったい、傷ついているにきまっている。

その後連絡しない日々が過ぎれば過ぎるほど、

「もう二度と会う気なくしたのね」

って思わせたりもしたことだろう。

あのデートコースを歩きながら話した内容はどういうわけだかほとんど覚えていない。だから、「こんな話はしたかな?」というふうにも考えてみた。何か思い出すかもしれないからだ。

それでわかったことに、ふつうなら例えば、

「大塚って行ったことある?私は、山手線に乗っていて通ることはあるんだけど降りたことないのよ。何があるのかしらって少し気になるんだけど、いつも通り過ぎるだけなの」

「ぼくもだよ。降りたことないんだ。小説に出てくる女の子の実家の本屋があることになってる町なんだけど、今度一緒に行ってみない?」

「小林緑でしょう?私もその本屋さん探してみたいの。実は。ないとわかっていても。行きましょう」

なんて話をするはずなんだけど、「今度○○行こう」とか、「今度○○食べよう」というような話を一切した記憶がないのだ。もし話していたら、ぼくは覚えているはずだ。

そして、そういう話をしなかったということは、二人ともが、その種の話を避けていたということなのかと考えてしまう。ふつうならば当然、自然に出てくるだろう話題に一度もなっていないというのは不自然で、意図的なものを感じるためだ(いかにも法律やってる人間の発想だ、これ)。そしておそらく、あのときも、どちらの意図だかわからないけれど(たぶん二人ともにだっただろう)相手のそういう空気を感じて、それに合わせていたんじゃないかという気がしてくる。たぶん二人ともに、互いの気持ちのズレが起こらないよう、気をつけていたんだと思う。自分だけが突っ走って情けない思いをしないように。

だけどそれは、あのときぼくが彼女に好きだとはっきり伝えていれば解決した問題だ。いや、あのとき好きだということは、お互いわかっていた気もする。

好きだという気持ちは了解していたものの、今後の二人の関係について切り出すことがどうしてもできなかったんだろうと思う。

あなた、きれいな顔してるわよね

その中ではっきり覚えていることがある。彼女は歩きながらふと、ぼくの顔を覗き込んで、

「あなた、相変わらずきれいな顔してるわよね」

と言ったのだ。ぼくが、

「どういうことか、わからないな」 ←出た、ハルキ

と言うと、

「あなた、きれいな顔なのよ。昔から。うちの母も小さい時からいつも言ってたのよ。あなたのこと、きれいな顔だって」

ぼくはこの20数年間、あのときの彼女のこのセリフに何度勇気づけられただろう。

なにしろ基本的に辛口なはずの彼女から、きれいな顔よね、と褒められたんだぜ。しかも、子どもの頃からずっとそう思われてたんだぜ。

だから、ブサ顔つってナメられることはないんだ。だから実力さえつければ無敵なんだ、という感じで。

その勇気で、厳しい試験のための勉強も、留学先での勉強も、プロフェッショナルになるためのトレーニングも乗り切れたんだ。

大勢の前で話すのも、大物を前にした大事な面接も、裁判所で裁判官や検察官たちの前での主張も、まったく緊張せずにやってこられた。

これ、言われたときは、「あー、またなんか褒められた」

って単純に嬉しくなっただけだったけど、今になって思えば、これも「好きよ」って言ってるのと同じだよね。

こう言ってくれた彼女に対して 自分がなんて言ったか思い出せない。

たぶん普段のぼくの行動パターンだと 、このあたりで100%手をつなぐことになってるんだけど(無言で)、彼女に対してどうしただろう?しかし急に手をつないだ場合、本気か照れによるものなのか知らないけど、「え?どうしたの?」なんて真顔80%の表情で訊いてきたりするんじゃないかなーと予想して、それで気まずくなったらイヤだと思ってやめておいた可能性が高いな。

ぼくは彼女に対しては妙にスカしすぎてしまっていて、彼女が本当は求めていた言葉を言ってあげていなかった。今日気づいて悔やまれることばかりだ。

彼女はたぶん、ぼくのために行きたかった大学を譲ったから、自分はやけくそで別の大学のたいして興味もない学部に行ってたんだと思うし、退廃的で破滅願望チックにも見えたのも、そこから来ていたんだろう。そのときは、彼女は好きでそういうスタイルでいるんだろうくらいにしか思わなかったけど。

しかも、この日の会話。

何だよ、ぼくのしゃべり方。

おれは村上春樹か

オシャレした村上春樹みたいじゃんか。ちょっとシャイぶっちゃってさ。

スマートでオシャレだったら村上春樹つうより、五反田君じゃないか。怖い。おばけが出そう。

ぼくは村上春樹みたいな、なんというか内気なしゃべり方をしていながら、最初のデートで最後まで行かなかったことは一度もない(むしろ村上春樹っぽいから迷わず最後まで行けるのかもしれないけど)

だからあの日彼女と、大人になって初めてのデートをしたのにホテルに行かなかったことは、人生最大の汚点だ。これはその後の20数年間で事例が積み重なった今だからはっきりしたことだ。この子とホテル行きたいなとか、この子今日うちに来ないかなとか、この子の家行きたいな、と思ってダメだったこと一回もないからね。

もっとも、いちばん多いパターンは、女の子から、

「今日あなたの部屋行っちゃおっかなー」

と言われるパターンなんだけど。と書いてまた新たな真実に気づいてしまった。

ひょっとして、「あなたんち行っちゃおっかなー」って言われるのは、待ってるのにぼくがなかなか誘わないから、業を煮やして女の子の方から押しかけて来ていたのか。

ぜんぜんダメじゃじゃないか。

ていうか、村上春樹テイストなだけに、自分からホテル誘うのではなく、内気な感じでぼんやりした会話している中で、女の子がぼくのアパートに来るって言って、ぼくが少し動揺しながらも女の子を迎えたり一緒に帰ったりして、座って夜中まで話して、ファ○クするという流れになってたわけだ。すごいな、春樹。

わざとじゃないけど、春樹テイストで生きていると、ほんとうに小説と同じパターンが展開されるんだな。パスタ茹でてると、ほんとうに決まって電話が鳴るしね。昔小説読んだときには、「奥さんに出て行かれるってどんな奴だよ」なんて思ってたけど、ぼくも実際出てかれちゃったしね。追いかけたりしなかったところも同じだ。奥さんに出てかれる追いかけはしないハワイに行く現地の少年たちから英語うまいねと言われるビーチボーイズの曲を歌うパスタを茹でる女の子が訪ねてくるファ○クする、みたいな。食べログ文化的雪かき、みたいな。イミフw

 

つづきは、

冷静と情熱のイツカ(emily8)

最後にエミリーへ(emily9)

本ポストは

ぼくが法学部法律学科ではなく法学部政治学科に入学したヒミツ(emily1)

エミリーと渋谷でデートした (emily2)

続エミリーと渋谷でデートした(emily3)

ナリタマトコの究極の記憶法(emily4)

彼女のことをエミリーって呼ぼう(emily5)

エミリーとホテル入る誘い方考えてみた(emily6)

のつづきだよ。

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