冷静と情熱のイツカ(emily8)

冷静と情熱のイツカ(emily8)

 

それにしてもぼくとエミリーは、すれ違いもいいとこだ。

「冷静と情熱のあいだ」だとか、

「サヨナライツカ」

の世界じゃないか。辻仁成ワールド炸裂だ。別に辻仁成好きではないけれど、映画化されたこの二つは舞台がフィレンツェとバンコクだから、特に「冷静と情熱のあいだ」は何度も見てしまった。冷静と情熱のあいだ

竹野内豊も西島秀俊もハンサムだね(西島秀俊はこの映画のときよりも最近の方がかっこいいと思う)。

20年前、元妻と初めてバンコクに来たとき、泊まったホテルのそばにある怪しいお店で、エンヤのアルバムのカセットテープを買って、それを聴きながら何度もフィレンツェを訪れていたころ、
冷静と情熱のあいだ」を観た。

映画の中で竹野内豊が学生時代に住んでいたのは、元妻が学生時代に住んでたからぼくも毎日のように通っていた梅ヶ丘だった。そして映画の中で竹野内豊がケリーチャンとデートした思い出の街は、ぼくが元妻と最初にデートした下北沢だった。

(おそらく辻仁成が住んでたことあったんだろうね。彼は玉川学園大学らしいから小田急線で一本だし。イカ天世代のバンドマンは下北によく出入りしてたし、そういう連中は下北沢から二駅の梅ヶ丘に住んでたもんなあ。ぼくや元妻は、演劇とかバンドとは無縁だったけど)

バンコクの空港がまだドンムアンだったころ、元妻と2回目のバンコクを訪れたとき、僕らはマンダリンオリエンタルに泊まった

その日までの2年間、ぼくらはケンカをしていたわけではないけれど、ほとんど口をきかず、用件はすべてメールで済ませていた。バンコクには別々の飛行機で到着し、オリエンタルの部屋で落ち合った。

疲れていたぼくらは、そこで些細なことから大ゲンカをした。2年間、ケンカを避けるために口をきかなかったんだけど、きちんとケンカをしたことで仲良くなった。昔みたいにすごく仲良く。

それから離婚するまで、一度もケンカをしなかった。離婚する2ヶ月前には、二人で再度、オリエンタルに泊まったりもした。

だからオリエンタルホテルは、ぼくの思い出の場所だ。

このホテルは、三島由紀夫の「豊饒の海」にも出てくる。出てくるのは第三巻「暁の寺」。弁護士になった主人公がバンコクを訪れ、チャオプラヤ川を眺めるオリエンタルの部屋に泊まるのだ。暁の寺―豊饒の海・第三巻 (新潮文庫)

ぼくがこの三島由紀夫の作品を読んだのは大学4年生の夏だったと思う。村上春樹が、「ねじまき鳥クロニクル」を2巻目まで出した後だった。

「ねじまき鳥クロニクル」の、謎解き本みたいな本が、村上春樹は三島由紀夫の「豊饒の海」の影響を受けているのではないか、推測していたからだ。1年も先に予定されているねじまき鳥の3巻目が待ち遠しく、それまでの時間をつぶすために豊饒の海を読んだ。ねじまき鳥クロニクル 全3巻 完結セット (新潮文庫)

ぼくはその長い長い作品の中で、タイが舞台となる「暁の寺」がいちばん心に残った。その当時はタイに来たことはなかったけれど、後に実際に訪れたオリエンタルホテルからのチャオプラヤ川の眺めはこの作品を読んで想像した通りだった。

チャオプラヤ川のボートから暁の寺(ワット・アルン)を

その頃、ぼくがいつもご飯を食べに行っていたお店が閉店し、跡地に新しくラーメン屋ができた。オープンさせたのは、閉店した店をやってた老夫婦の一人息子。ぼくは老夫婦が閉店前に常連客と話しているのを聞いて事情を知っていた。

その息子というのは、なぜかタイが好きで、ずっとタイに行ったきりだったけど急に、
「オレ結婚するから」
と言って現地の女性と勝手に結婚して、今度日本に帰ってくることに。「帰ったらオレ店継ぐよ」って言ってたけど、もう遅いのよね。この店は閉めることにしたから。まあ本人が何かやりたいっていうならここに新たに自分で作ったらいいわ、というようなことを老夫婦は常連客に話していた。

その話に出てきた一人息子が、もとの店と同じ場所に簡素な造りのラーメン屋をオープンさせ、話に出てきたタイ人の嫁さんが手伝ってた。

老夫婦の話を聞いてぼくが想像してたよりも、タイ人の嫁さんはきれいな人だった(ぼくはもっと、人身売買でわけも分からず連れて来られたみたいな、怪しくイヤらしさいっぱいの雰囲気を想像してた。その当時、タイ、と聞いてぼくの頭に思い浮かぶのは、想像しただけで汗ばみそうな、東南アジアの高温多湿の熱帯雨林の景色とジャパゆきさんくらいだったから。そんなところに好んで行って、女性を連れて帰ってくるなんて、何か黒い事情があるに決まってる、って勝手な想像をしていたのだw)。ぼくの想像なんかよりずっときれいで健康そうな女性だったけど、そのタイ嫁さん、なんかドジッこくて、いつも夫(老夫婦の息子)に怒られてた。その夫というのは、30過ぎてるのに定職にも就かずに、タイに入り浸っていたドラ息子のくせに(オイオイ、自分も似たような大人になっちまったぜ)、ちょっと神経質で、彼なりの細かいやり方があるんだけど、嫁さんの方はそれをどうしても理解できず、彼の言うとおりの動きができないらしかった。神経質な夫は、そんな嫁の出来なさ加減にさらに神経質に苛立ち、いちいち怒りまくっていたのだ。

カウンターしかないその店のカウンターの向こう側で、常にタイ人の嫁さんが怒られてるのは、すごくいたたまれず、こっちまで気まずいし、食べた気がしなかった。けど、その店のラーメンはほんとにおいしくて(神経質なだけのことはある)、癖になってしまったため、ぼくは毎日その店で食べてた。

そこへ食べに行くとき、決まって持っていって読んでたのが、三島の「暁の寺」だった。タイ嫁がこれでもかというくらい夫から怒られまくって涙を流すのを聞きながら読んだものだ。その頃は20年後の自分がこんなに関わると思ってもみなかったタイとつながりまくる話だ。この「暁の寺」を含む「豊饒の海」は、「輪廻転生」がテーマでもあったから。

そんな感じで、かつて世界最高といわれたオリエンタルホテルは、ぼくにとっても思い出深い場所だ。このオリエンタルホテルは、辻仁成原作の映画「サヨナライツカ」でも、印象的な舞台の一つとして使われている。中山美穂が西島秀俊との再会を願って何十年も待ち続ける場所として。

ところが「サヨナライツカ」を今見直してみたら、なんと、まったくすれ違いドラマではなかった。サヨナライツカ

以前この映画観たとき、西島秀俊の老けメイクがふざけたコントにしか見えなくて、後半のストーリーがまったく頭に入らなかったせいで、記憶がおかしなことになっていたんだ

今見てもあのメイクひどい。ひどすぎる。ストーリーが入ってこない。このことは声を大にして言いたい

 

今見ても、おかしすぎて泣けない。

ミポリンの演技も、あまりに大根でひどい。ミポリンって、あんなだっけ?

辻仁成やばい

この映画がひどいと思うもうひとつのポイントは、西島秀俊演じる主人公は、会社でも私生活でも「好青年」てことになっているが、見ていてちっとも好青年ではないところだ。

ハンサムで仕事もできて、野球もできて、女性にもモテる、ってことで好青年といってるのだろうと思うけど、この主人公は自分本位にすぎ、他人にも、困っている人にも、仲間にも、わが子にも無関心、愛しているかにみえる女性や妻に対しても、信じられないくらいに冷酷だ。

こんな人間が好青年と呼ばれるはずがないし、たとえ呼ばれることがあったとしてもすぐに化けの皮がはがれ、好青年と呼ばれ続けることはないだろう。皮肉を込めての場合以外では。
(まるでぼくのようだワッハッハ..だからぼくはモテはしても好青年とはいわれないもんね)

という感じで考えてて、ぼくが見たことある辻仁成原作のこれら二作品、登場人物がみんな薄っぺらいことに気がついた。

今ごろこんなことに気づいて、大発見のようにこうしてブログに書くなんて、うわーバカっぽくて恥ずかしい。

ごめんな、辻仁成。

ぼくは辻氏の小説そのものは読んでなくて、映画を観た印象だけで語っているから、小説では薄っぺらくなどないかもしれない。

でも、ぼくは、「ドゥオモ、いつか一緒にのぼってくれる?…たとえば、10年後」とか、25年間オリエンタルホテルで待ち続ける、とかいうストーリーやその舞台を気に入っていただけなんだ。たぶん。

 

 

つづきは

最後にエミリーへ(emily9)

本ポストは

ぼくが法学部法律学科ではなく法学部政治学科に入学したヒミツ(emily1)

エミリーと渋谷でデートした (emily2)

続エミリーと渋谷でデートした(emily3)

ナリタマトコの究極の記憶法(emily4)

彼女のことをエミリーって呼ぼう(emily5)

エミリーとホテル入る誘い方考えてみた(emily6)

あれは究極のデートだったことに気がついた(emily7)

のつづきだよ。

 

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