ナリタマトコの究極の記憶法(emily4)

ナリタマトコの究極の記憶法(emily4)

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エミリーは、幼稚園のときも、小学校のときも、大学受験の勉強を一緒にやっていたときも、たいてい自分が覚えたばかりだったり、知ったばかりのことを、

「ねえねえ、○○って知ってる?」

って小生意気な顔つきで質問してくるのがクセだった。

You know?
You know?

それに対してぼくは、毎回、表情を変えずに、

「知ってるよ。××のことだろ?」
と、さも当然のように平然と答えるというのが暗黙のうちに定着したルールになっていた。ぼくの記憶では、ぼくは彼女がそうやって出す問題に答えられなかったり、答を間違えたりしたことはない。
ぼくがいつも正解を言うのに対し、彼女は少し満足げな、だけど不満げな顔で、「ふーん」と言う。「あなただったらわかるかなと思って聞いたけど、なんでこんなことまで知ってるわけ?私昨日勉強してやっと覚えたばかりなのに」って感じで不満なんだろうなと思っておかしかった。とはいえ、「さすがにこれはわからないんじゃないかな」という気持ちで聞いているものの、ぼくが正解することをどこかで期待しているような、ぼくの出来具合ていうか彼女自身の勉強の進み具合をそれによって確認しているかのような感じだったために、満足げでもあったんだろうなと思う。

そしていつもは「ふーん、じゃ次」と言って手持ちの問題がなくなるまで出題するだけで、こっちは正解してても「ピンポーン」も「正解」も「あたり」もなかったんだけど、一度だけ興奮気味に、「すごい」と言ってくれたことがある

大学入試の前の何ヶ月か、僕らはときどき会ったり、電話したりして一緒に勉強していたんだけど、電話での勉強というのは、例の彼女式の出題形式で問題を出し合うのだ。
あるとき、彼女が世界史の出題で、

「○○って知ってる?」と訊くので、いつものように
「××だろ?」

と答えたところ、
「きゃー!なんで?あなたすごい
これ世界史用語集の見出しには載ってなくて、説明部分に一箇所だけ出てくる名前なのよ」
と言う。

「見出しになってるやつは知ってて当然だろ?だから、説明部分に書かれている事項にもチェックペンでマークして覚えた」

「私も同じこと考えたの。だから出題してみた」
「なんだ、君も同じことやってるんじゃないか」
「そうだけど、私まだ全部覚え切れてないもん」

「大丈夫。心配ないよ。
まず一日にやる量決めるだろ?
30ページなら30ページ。

チェックペン塗ったとこ自分で隠して答えながら、
間違えたところや覚えてないところには印をつけとくわけ。

同じ日に、印ついてるところだけ3回くらい繰り返すのね。
で、今合ってたところは何ヶ月か後でも覚えてるから、もうやらなくていい。

だから「この範囲をインプットしてからやろう」と思わないで、
いきなりチェックシートで隠して答えていくのね。
インプットしなくてわかるところを除外するためだから

何十ページかずつやってけば数日で一通り終わるから、
次は、1周目で印つけたところだけを全範囲やるんだよ。

印つけたところは最初やった日に3回くらいやってるから、
覚えてるのもけっこうある。
なので、全範囲でも1日とか2日でできるから。

 

2周目3周目でも、できないやつに別の印をつけてしつこくやるわけ。
あとは印関係なく全部を流すわけだけど、超高速でできるよ。

これならやれそうだろ?」

「うん。でもあなたすごい」

「すごくないよ。
 ぼくは暗記ってのが絶望的に苦手で、どうやって覚えたらいいかわかんなかったんだ。
子供のときから勉強したことなくて、
一回見て自然に頭に入ってることだけで中学入試まではなんとかなっちゃったから。
なので自然に頭に入らないやつをどうやって頭に入れたらいいのかぜんぜんわかんない上に、
勉強しなきゃいけないヤツは頭が悪い』って思い込んでたから、
『勉強したら終わりだ』とか思ってて。
『だって勉強すりゃできて当然だろ』、みたいな。

でも中1から高2くらいまで苦しんで、自分の真実に気づいてしまったわけ。
自分は、勉強もして「覚える」こともしなければならない人間なんだと。

で、仕方がないから、学校で一番のやつに、どうやって覚えてるのか聞いたんだよ
ぼくは暗記とかがいらない科目は彼よりできるときもあったから、
『覚え方教えてくれ』って頼んだら、最初かなり警戒されたけどね」

 

「あなたが勉強したことないって言ってたの、本当だったのね」

勉強したらばかだってことだと思ってたからね。自分をばかだとはどうしても思いたくなくて、勉強しなかった

「かわいい発想ね」(なんだか、この日の彼女、やさしい)

「真実に気づいて、がっかりだよ。勉強しないで済ませるよくできた言い訳だったのにさ。自分への」

今だったら、

「今の、『あなたすごい』っての、もう一回言ってくれる?」
みたいな、完全なるオッサンのイヤらしい発言をするところだ。
いやあ、しかし何回も言ってほしいわ。

 

 

つづきは、

彼女のことをエミリーって呼ぼう(emily5)

エミリーとホテル入る誘い方考えてみた(emily6)

あれは究極のデートだったことに気がついた(emily7)

冷静と情熱のイツカ(emily8)

最後にエミリーへ(emily9)

本ポストは

ぼくが法学部法律学科ではなく法学部政治学科に入学したヒミツ(emily1)

エミリーと渋谷でデートした (emily2)

続エミリーと渋谷でデートした(emily3)

のつづきだよ。[/three-fourths-first][one-fourth]..[/one-fourth]

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