このヒミツを暴露する狙い
ぼくが卒業したのは慶應の法学部法律学科なんだけど、実は入学したのは同じ法学部の政治学科。
ちなみに慶應の政治学科出身者には、やまもといちろう氏、はあちゅう女史、安藤美冬女史などがいる。同じ法学部でもまじめな法律学科とはぜんぜん雰囲気が違う、ちょっとふざけた学科なんだよね。
高校生のときから法律を勉強したいなと思ってたぼくが、法律学科でなく政治学科に入学したのにはふざけたヒミツがあった。いまだに親にも話してないw。元妻にも話してなかったなww。ぼくは人生の大事なことを、ふざけた理由で決断する傾向にあるから、家族や友人にはほんとのことを話せないんだよね。法律学科に行くはずで、実際あとから法律学科へ編入したぼくが、どうして政治学科に入学したのか、そのふざけた理由は、エミリーという初恋の恋人のある一言。いまからそれについて書くね。
プラトニックな幼なじみの恋人、エミリー
ぼくには幼馴染みで大好きな女の子がいて(「エミリー」と呼ぶことにする。別記事参照)、その子とは小学校5年生のときからつき合って、中学・高校では離ればなれになったものの、高3の秋に予備校の模試の会場で再会した(その少し前に電話で会話したことが一度だけあった。でもその後、彼女の親友である女の子と4日にわたってキスをしまくった「キス事件」が起こったため、もう彼女とは会えないかなと思っていた。舌を入れたりしてきたのはその女の子の方なのに、ぼくを悪者としてエミリーに言いつけていたに決まっているからだ)。

模試で再会したあと、同じ大学受験して、同じ大学行こうねって、ときどき一緒に勉強したり、電話で進捗状況を報告しあったり、問題を出しあったりした。
「じゃ、受かったら、…ね」
そんなある日、エミリーが、
「一緒に慶應の法学部に行くじゃない?そしたら同じ授業取ろうよ。あなたどうせずっと寝てるでしょ?私がノート見せてあげるからさ」
「あと、ときどき私がごはん作りに行ってあげる」
と言い出した。ぼく的には、夢のような話だ。もう、その日から俄然勉強やる気が出まくった。その上、和田秀樹の「受験は要領」って本の、
「彼女には、『受かったらヤらせてくれ』と言え」
って書かれているページを開いて、「これ、どう思う?」、と訊くのだ。
エッ
なんだよそれ!って思いながらも、超マジメな表情で(ニヤけるのを必死でこらえて)
「あー読んだよ、ぼくも。女の子は恋愛してても受験に影響しないことが多いけど、男はそういうことするとハマって落ちるっていうんだろ?まあ、そうかもね、って思うよ」
と答えた。今考えても、よく真顔でそんなこと言ったと感心する。
そしたらエミリー、
「じゃ、慶應受かったら、…ね」
と、意味ありげに微笑んだ。
オイちょっと、本気で言ってるの?って思いながらも、あんまりこの話題引っ張ると、ぼくのことをエロだと思って引かれちゃう、と思ったから、「うん、そうだね」とかろうじてスカして答えた。さすがに目を見たらニヤけてしまいそうだったから、目をそらしたまま。

(当時は、なんでこんな探りの入れ方してくるんだろうなーなんて思っていたけど、今になってみると、彼女のこの言動、すごく健気でかわいいな。今でも好きになっちゃうな。つうかホレ直した。
当時のぼくは、そりゃあ彼女のこと好きだったけど、受験前の時期に、彼女とそういうことしようなんて少しも思わなかった。本に書かれていたこととは違って、ぼくは大丈夫だけど、彼女の試験がうまくいかなくなったりしたらたいへんだと思っていたから。ぼくにとっては、同じ慶應に入って同じ授業取って彼女からノート見せてもらったり、たまにごはん作りに来てもらったりする未来を想像できるだけで十分だった。だってごはん作りに来るってことは、結局そういうことじゃん。あ!
だけど彼女は彼女で、自分は大丈夫だけどぼくがハマって受験に失敗したりしたらたいへんだと思いつつ、ぼくのヤル気を出させるために、わざわざあんなこと言ったのかもしれない。
と今になって思う。
なんなんだ、これ。「賢者の贈り物」みたいな愛じゃない?エミリーごめんね。ありがとう。あの頃も好きだったけれど、今、もっと好きになったよ。もう遅すぎるけどね。
それにしても彼女は、親友のあの子から聞いているに違いないキス事件のことには一言も触れなかった。なぜだろう?)
慶應義塾大学法学部(政治・法律)入試前日
慶應法学部の入試の前日、エミリーから電話があった。
「明日だね」とぼくが言った。とうとう明日だ。
「あのね、私、明日、受けないから」
「え?どういうこと?」

「だから、私、明日慶應受けない。
私、今までに、もういくつか合格したのよ。
それでもう、なんか疲れちゃったのよ。
だから、明日は受けるのやめる。ごめんね。
あなたは頑張って。きっと受かるわよ。
じゃ、そういうことだから。またね。
明日、頑張ってね。応援してる」
と、一方的に言って、電話を切ってしまった。
ちょっと待ってよ。
彼女と一緒に慶應行けると思ったから、
彼女と同じ授業取ろうって約束したから、
彼女がノート見せてくれるって言ったから、
彼女がごはん作りに来てくれるって言ったから、
彼女が「じゃ、受かったら、ね」って微笑んだから、
ぼくは法学部の法律学科じゃなく彼女と同じ政治学科に願書を出したんだぞ。
親からも、
「あれ?法律じゃないの?」なんて訊かれて、
「政治の方が広く勉強できそうだからさ。法律もやろうと思えばできそうだし」
なんつってごまかしたりもしたんだ。
でもまあ、仕方ない。明日が本番だから、とりあえず試験受けて、自分だけでも受からないと話にならないし。
(しかもそれまで東大が第一志望だったぼくは、彼女と慶應に行きたくなりすぎて、「東大受かってるのに慶應行きたいって、親にどう説明しよう?」などとばかなことを考えていたところ、さらにばかげたことに東大はセンターで足切りされてしまったのだ。足切りされそうな点数ならそこへは出願しないのがふつうだろうから、自分以外で足切りされたヤツ見たことないわ。慶應行くため東大蹴る方法とかいう(笑)悩みが減ってよかったんだけど、さすがに慶應は落ちるわけにはいかなくなっちゃった)
とにかくあとのことはあとで考えよう。
って思って、翌日は入試を受けた。
慶應義塾大学法学部 合格発表後
予想どおりぼくは慶應の法学部政治学科に合格した。
合格発表見てすぐ、彼女に、受かったよ、と電話した。
彼女と同じ大学ではないけど、一応、二人とも4月から大学生だ。だから今後のことを話そうと思ってた。電話に出た彼女は、

「おめでとう。あなたは受かると思ってたわよ。
あのね、大学入ったら、もう会えないから」
「え?」
「だから、もうあなたには会えないの。
連絡もできない。電話もしてこないで。
ごめんね。
じゃ、そういうことだから。
慶應おめでとう。元気でね」
ぼくに口を挟む余地を与えずそう言って、電話を切ってしまった。
ぼくはぽかーんと、受話器を見ながらたたずんでしまった。
いったいどうしたというんだ?
一緒の授業取るんじゃなかったの?
大学は別々になっちゃったからそれはだめとしても、
ときどきごはん作りに来てくれるって言ってたのは?
それに、
「じゃ、受かったら…、ね」
って意味ありげに微笑んだのはどうなったの?
ぼくにはまったくわけがわからなかった。それからほんとうに彼女と連絡をとることもなく、大学での新たな生活が始まって、エミリーのことはあまり考えないようになった。
それから2年後。「今日会いましょう。お昼過ぎに渋谷の文化村」
だけど2年あまり過ぎたころ、彼女に連絡してみようと思った。
なんでもう会わない、なんて言ったのか、やっぱりどうしても知りたかったし。
昔は携帯だとかメールなんかなかったから、連絡をつけるってのもいちいちたいへんだった。第一、彼女の連絡先変わってて、すぐにはわからなかったし。最終的には例のキス事件でキスをしまくった女の子に伝言を頼んだんだ。まあよく引き受けてくれたものだとは思う。電話するなり、彼女の方から「エミリーと話したいんでしょ?あなたに電話するよう伝えてあげる」って言ってくれたわけだしね。ありがと。実はいい子なんだね。外見がモデルみたいなだけじゃなくて。30年近く経った今となってはキスもいい思い出だわ。
エミリーからはその日のうちに、というか数分後には電話が掛かってきた。

「そろそろあなたから連絡が来るころだと思っていたわ」
(連絡してこないで、って言ったのは彼女の方なんですけど)
そして彼女は続けてこう言った。
「今日会いましょう。お昼過ぎに渋谷の東急文化村で」
今日だって?うん、いいよ。どうせぼくも授業なんか出てないしね。
ぼくは彼女の指定した文化村に向かった。
(長くなるから続きは別記事で)
つづきは